論点は法人税のうち、期末の時価評価にだけフォーカス
2023年1月20日に国税庁は「法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)」を公表しました。
仮想通貨の税金計算全般について国税庁は2017年以降、毎年FAQを出しています。
今回のFAQ(期末評価FAQ)は法人税、しかも期末の時価評価の論点だけを取り上げている点が特徴的です。
目次の紹介
今回の期末評価FAQには6つの論点が集録されています。
DEXやステーキングなど、2020年頃から話題になり始めた取引形態の名称が目に飛び込んできます。
No | 項目 |
---|---|
1 | 暗号資産の期末時価評価 |
2 | 期末時価評価の対象となる活発な市場が存在する暗号資産 |
3 | DEXにおいて取引される暗号資産 |
4 | ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価 |
5 | 貸付けをした暗号資産の期末時価評価 |
6 | 借入れをした暗号資産の期末時価評価 |
このFAQが(情報)となっているのはこの文書が法律や法令ではなく、あくまでも国税庁の見解だからです。
法律ではないものの国税局はこの文書の内容をもとに税金計算の妥当性を検証するわけです。
実務ではこのFAQに基づいて様々な会計、税務処理がなされるはずです。
この記事では期末評価FAQの内容を一つ一つ見ていくとともに、気になる点があればコメントを入れていきます。
コメントは青文字で付し、それ以外はFAQの原文となります。
なお、オフィシャルの文書は下記のリンクで入手できます:
法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)
1 暗号資産の期末時価評価
問
当社は、事業年度終了の時に暗号資産を保有していますが、期末に何らかの処理をする必要はありますか。
答
法人が事業年度終了の時において有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産(注)(本問 において「市場暗号資産」といいます。)に限ります。)については、時価法により評価した金額(本問において「時価評価金額」といいます。)をもってその時における評価額とする必要があります。
なお、その市場暗号資産を自己の計算において有する場合には、その評価額と帳簿価額との 差額(本問において「評価損益」といいます。)は、その事業年度の益金の額又は損金の額に 算入する必要があります。
また、この評価損益は翌事業年度で洗替処理をすることになります。
なお、時価評価金額は、暗号資産の種類ごとに次のいずれかにその暗号資産の数量を乗じて 計算した金額とされています。
1 価格等公表者によって公表されたその事業年度終了の日における市場暗号資産の最終
の売買の価格(※1)
(※1) 公表された同日における最終の売買の価格がない場合には、同日前の最終の売買の価格が公表された日でその事業年度終了の日の最も近い日におけるその最終の売買の価格となります。
2 価格等公表者によって公表されたその事業年度終了の日における市場暗号資産の最終
の交換比率×その交換比率により交換される他の市場暗号資産に係る上記1の価格(※2)
(※2) 公表された同日における最終の交換比率がない場合には、同日前の最終の交換比率が公表された日でその事業年度終了の日に最も近い日におけるその最終の交換比率に、その交換比率により交換される他の市場暗号資産に係る上記1の価格を乗じて計算した価格となります。
(注) 活発な市場が存在する暗号資産とは、法人が保有する暗号資産のうち次の要件の全てに該当するものをいいます。
イ 継続的に売買価格等(※3)が公表され、かつ、その公表される売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。
(※3)売買価格等とは、売買の価格又は他の暗号資産との交換の比率をいいます。
ロ 継続的に上記イの売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
ハ 次の要件のいずれかに該当すること。
(イ) 上記イの売買価格等の公表がその法人以外の者によりされていること。
(ロ) 上記ロの取引が主としてその法人により自己の計算において行われた取引でないこと。
【関係法令等】
法法61
法令118の7、118の8、118の9
参考
令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日閣議決定)では、暗号資産の評価方法等について、次の見直しを行うこととされております。
詳細につきましては、今後、法令等により明らかにされます。
1 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するも
のの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。
イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。
ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているも
のであること。
(イ) 他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
(ロ) 一定の要件を満たす信託の信託財産としていること。
2 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。
コメント:
法人が保有する仮想通貨(暗号資産)の時価評価については2019年12月20日に国税庁が公表した「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」(Version3)にFAQ論点として初めて登場しました。
個人の所得税では未実現利益(損失)への課税はありません。
法人税では未実現利益(損失)が課税がされるという点で両者の間で大きな取扱いの差が生まれました。
未実現利益(損失)は文字通り実現していないのでキャッシュになっていません。
実現していない利益がどのような理屈で課税対象になるのか、かなり苦しい説明になると思います。
売買目的有価証券などと同様の処理、ということなのかもしれませんが、未実現利益(損失)への課税は2つの点で大きな問題と考えます。
1つ目は法人の事業活動を阻害してしまう点です。
法人は様々な理由で仮想通貨を保有します。
一つは国や中央銀行が行うインフレ政策から企業の資金を保護し、バランスシートの健全化を図る目的です。
Microstrategy、Square、テスラなどはバランスシートの健全化を理由にビットコインを保有しています。
法人が仮想通貨を保有するもう一つの理由は法人の事業活動の内容によっては仮想通貨が必要になるからです。
これには様々なパターンがありますが、2つ例を紹介します。
1つ目の例はスマートコントラクトを使ったサービスを展開している法人のケースです。
スマートコントラクトとはブロックチェーン上で実行されるプログラムです。
このプログラムを実行するには一般的に仮想通貨が必要です。
スマートコントラクトを使ってサービス提供している法人は、プログラムを日常的に実行させるために一定の仮想通貨を営業上の理由で保有する必要があります。
違うパターンをもう一つ紹介します。
ライトニングネットワークの登場により、ビットコインの送金はかかる時間・コストは共に大幅に減少しました。
今では円未満の単位で、瞬時に、ほぼタダで世界中どこにでもビットコインを送れるようになりました。
そうすると実現するのがマイクロペイメントです。
秒単位の課金・支払いを前提としたサービスが広まりつつあります。
このようなサービスの登場によりクリエイターは広告による収益モデル以外の方法で収益獲得ができるようになります。
マイクロペイメントを活用したサービス利用には一定の仮想通貨の保有が前提となります。
上記のように営業上の理由で仮想通貨を保有する法人は、期末時価評価により発生する税務エクスポージャーをヘッジしなければなりません。
デリバティブ取引を行うなど、コスト、事務負担、新たなカウンターパーティーリスクの負担を強いられることになります。
2つ目の大きな問題点は資金効率の悪化です。
利益は再投資されることで複利効果を生みますが、未実現利益への課税は資金効率を大幅に低下させます。
法人かそうでないかによって資金効率の有利不利が発生するのは公平とは言えませんし、最適な経営判断が歪められる結果、意図せぬ影響が出る可能性があります。
資金効率の向上は経済成長のために不可欠ですし、その結果税収も上がります。
未実現利益への課税はこのような点で問題と考えます。
2 期末時価評価の対象となる活発な市場が存在する暗号資産
問
期末時価評価の対象となる活発な市場が存在する暗号資産とはどのようなものですか。
答
活発な市場が存在する暗号資産とは、法人が保有する暗号資産のうち次の要件の全てに該当 するものをいいます。
1 継続的に売買価格等(注)が公表され、かつ、その公表される売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。
(注) 売買価格等とは、売買の価格又は他の暗号資産との交換の比率をいいます。
2 継続的に上記1の売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
3 次の要件のいずれかに該当すること。
イ 上記1の売買価格等の公表がその法人以外の者によりされていること。
ロ 上記2の取引が主としてその法人により自己の計算において行われた取引でないこと。
活発な市場が存在する暗号資産に該当するかどうかは、保有する暗号資産の種類、その保有 する暗号資産の過去の取引実績及びその保有する暗号資産が取引の対象とされている暗号資 産取引所又は暗号資産販売所の状況等を勘案し、個々の暗号資産の実態に応じて判断することになりますが、この判断に際して、例えば、合理的な範囲内で入手できる売買価格等が暗号資産取引所又は暗号資産販売所ごとに著しく異なっていると認められる場合や、売手と買手の希望する価格差が著しく大きい場合には、上記1及び2の観点から、通常、市場は活発ではないと判断されることになります。
また、上記3の要件は、上記1の売買価格等を公表する者が自己のみであり、かつ、その売買価格等が主として自己の計算において行われた取引によって形成された価格である場合には、時価を自ら創出・操縦することによる利益調整が可能となることから、このような価格は法人税の観点から公正な価格とは言えないため、時価法の対象から除外するために設けられた要件となります。
したがって、暗号資産交換業者の場合には、ある暗号資産について、自己の運営する暗号資産取引所又は暗号資産販売所の売買価格等以外の売買価格等が存在すれば、その暗号資産は上記3の要件に該当することになります。
また、ある暗号資産について、自己の運営する暗号資産取引所又は暗号資産販売所の売買価格等のみが公表されている場合でも、その売買価格等が主として他の者の計算において行われた取引(取次ぎ又は代理)によるものである場合には、その暗号資産は上記3の要件に該当することになります。
【関係法令等】
法法 61
法令 118の7
コメント:
ほとんどの仮想通貨は取引量が少なく、活溌な市場が存在すると言えるほどの流動性は存在しません。
取引所の取引画面でチカチカと見える取引も殆どはLP(Liquidity Provider)やMM(Market Maker)と言われる業者によるものです。
大量のコインを売却しようとするとLPやMMは注文を取り下げますので大きなスリッページが発生します。
仮想通貨の中では圧倒的に流動性のあるBTCですが、国内のマーケットだと2%のスリッページでさばけるのは数億円程度です。
期末に時価評価する場合は流動性ディスカウントを反映することが合理的と考えます。
3 DEXにおいて取引される暗号資産
問
当社が保有する暗号資産Aは、DEX(分散型取引所)に上場されています。
本件DEXでは、自動マーケットメイカーによって現時点における当該暗号資産Aと市場暗号資産Bとの交換比率が明らかにされ、その明らかにされた交換比率に基づき、随時、当該暗号資産Aと市場暗号資産Bとの交換の取引が行われています。
この場合に、当該暗号資産Aは法人税法上の期末時価評価の対象となりますか。
答
暗号資産Aが活発な市場が存在する暗号資産に該当する場合には、期末時価評価の対象とな ります。
法人税法上、期末時価評価の対象となる活発な市場が存在する暗号資産とは、法人が保有す る暗号資産のうち次の要件の全てに該当するものをいいます。
1 継続的に売買価格等(注)が公表され、かつ、その公表される売買価格等がその暗号資産の売買の価格又は交換の比率の決定に重要な影響を与えているものであること。
(注) 売買価格等とは、売買の価格又は他の暗号資産との交換の比率をいいます。
2 継続的に上記1の売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
3 次の要件のいずれかに該当すること。
イ 上記1の売買価格等の公表がその法人以外の者によりされていること。
ロ 上記2の取引が主としてその法人により自己の計算において行われた取引でないこと。
ところで、DEXとは、一般に中央に管理者のいない分散型取引所のことをいいますが、い わゆる市場には、随時、売買・換金等を行うことができる取引システム等が含まれると解されます。
この点、本件DEXでは、自動マーケットメイカーによって現時点における暗号資産の交換比率が明らかにされ、その明らかにされた交換比率に基づき、随時、暗号資産の交換の取引が行われており、本件DEXは市場の範囲に含まれると考えられます。
このため、本件DEXにおいて公表される交換比率が他の暗号資産取引所において公表され る交換比率と著しく異なるといった特殊な事情が認められず、本件DEXにおいて継続的に暗号資産の交換の取引が成立しているのであれば、本件DEXにおいて取引の対象となる暗号資産は上記1から3までの要件を満たす限り期末時価評価の対象となり、通常は、本件DEXによって公表された事業年度終了の時における最終の交換比率に、その交換比率により交換される他の活発な市場が存在する暗号資産の事業年度終了の時における最終の売買価格を乗じて計算した金額が期末時価評価金額になるものと考えられます。
【関係法令等】
法法61
法令118の7、118の8
コメント:
FAQ3に対するコメントと同じです。
DEXでしか取扱いのないクリプトの流動性はかなり低く、公表されるSpot価格と売却により実際に得られる金額には大幅な乖離が想定されます。
DEXが利用する価格形成メカニズムであるAMM(Automatic Market Maker)はその仕組み上、取引額が大きくなればなるほど大きなスリッページが発生します。
また、ブロックチェーン上の取引は常に第三者により監視されており、金額の大きい取引にについては先回りされ、不利な価格で取引が完結してしまうリスクが常にあります。
これは通称サンドウィッチアタックと呼ばれ、MEV(Miner Extractable Value)の一種です。
株取引などの既存金融でも同じようなことはHigh Frequency Traderによって行われていますが、取引額に対する比率で言えばDEX取引の方が影響は大きいです。
DEXで形成されている価格を参考に期末時価評価をする場合は、流動性ディスカウントに加えて、MEVなどのコストを反映するのも合理的と考えます。
4 ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価
問
当社は、保有する暗号資産Aについて、ステーキングによる報酬を得るために、ロックアップ(暗号資産を他に移転できないような仕組みを採用)を行っております。
この暗号資産Aに関しましては、所定の条件を満たしてロックアップが解除されるまでは、当社は譲渡ができない状態になっております。
この場合、当社がロックアップしている暗号資産Aについては、法人税法上の期末時価評価の対象となり、評価損益を益金の額又は損金の額に算入する必要がありますか。
なお、暗号資産Aは、暗号資産取引所に上場されており、十分な数量及び頻度で取引が行われ、継続的に売買価格等が公表されております。
また、当社は、その暗号資産取引所を運営しておらず、その暗号資産取引所で暗号資産Aの取引も行っておりません。
答
法人税法上の期末時価評価の対象となり、評価額と帳簿価額との差額を益金の額又は損金の 額に算入することとなります。
法人が事業年度終了の時において有する暗号資産のうち、活発な市場が存在する暗号資産を 自己の計算において有する場合には、時価法により評価した金額をもってその時における評価額とし、その評価額と帳簿価額との差額をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。
本件ではその保有する暗号資産はロックアップにより譲渡できない状態となっておりますが、ロックアップ期間中にステーキング報酬を得ることができます。
また、その保有する暗号資産の将来的な価格変動リスク等を貴社が負うため、自己の計算において暗号資産Aを有するものと考えられます。
その他、本件においては、暗号資産Aは継続的に売買価格等が公表されている等の所定の要 件を満たしますので、活発な市場が存在する暗号資産となり、貴社は事業年度終了の時において有する暗号資産Aについて、時価法により評価した金額をもってその時における評価額とし、 その評価額と帳簿価額との差額は、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。
【関係法令等】
法法61
法令118の7
コメント:
活溌な市場が存在することに着目して期末時価評価の対象との結論になっています。
しかし、多くの人はこの結論に違和感を感じるはずです。
理由は保有目的を度外視しているからです。
イーサリアムは以前ビットコインの同様PoW(Proof of Work)を採用しマイナーがブロック生成を行っていました。
2022年にProof of Stake(PoS)に移行し、その後はバリデーターがブロックの生成を担っています。
バリデーターになるためには32ETHをステーク(ロックアップ)する必要があります。
イーサリアムのネットワーク維持に貢献するために32ETHを拠出して起業したとします。
期末を迎えた時点でETHが値上がりしていたとします。
税金を払うためにはETHを売ることになりますが、バリデーターとしての必要量を下回ってしまうため、事業存続ができなくなります。
保有目的によって会計・税務処理が変わるのが株式です。
売買目的有価証券は短期売買を目的としているものであり、期末の時価評価の対象になります。
一方、投資目的有価証券や子会社株式は短期売買が目的ではなく、株式を通じて投資先に影響力行使するために保有されるものです。
その目的を考慮し、投資有価証券と子会社株式の未実現利益については税務上課税されません。
活発な市場が存在したとしてもです。
クリプトに関しても保有目的は法人それぞれです。
保有目的を考慮した税務処理を採用することで既存の税務上の取扱いとの整合性も得られると考えます。
5 貸付けをした暗号資産の期末時価評価
問
当社は、保有する暗号資産Aについて、使用料を得るために相対による貸付けを行っております。
この暗号資産Aに関しては、貸付期間が終了するまでは、当社は譲渡ができない状態になっております。
この場合、当社が貸付けしている暗号資産Aについては、法人税法上の期末時価評価の対象となり、評価損益を益金の額又は損金の額に算入する必要がありますか。
なお、暗号資産Aは、暗号資産取引所に上場されており、十分な数量及び頻度で取引が行われ、継続的に売買価格等が公表されております。
また、当社は、その暗号資産取引所を運営しておらず、その暗号資産取引所で暗号資産Aの取引も行っておりません。
答
法人税法上の期末時価評価の対象となり、評価額と帳簿価額との差額を益金の額又は損金の 額に算入することとなります。
法人が事業年度終了の時において有する暗号資産のうち、活発な市場が存在する暗号資産を 自己の計算において有する場合には、時価法により評価した金額をもってその時における評価額とし、その評価額と帳簿価額との差額をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。
本件ではその保有する暗号資産を貸し付けておりますが、貸付期間中に使用料を得ることが できます。また、その保有する暗号資産の将来的な価格変動リスク等を貴社が負うため、自己の計算において暗号資産Aを有するものと考えられます。
その他、本件においては、暗号資産Aは継続的に売買価格等が公表されている等の所定の要 件を満たしますので、活発な市場が存在する暗号資産となり、貴社は事業年度終了の時におい て有する暗号資産Aについて、時価法により評価した金額をもってその時における評価額とし、 その評価額と帳簿価額との差額は、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。
【関係法令等】
法法61
法令118の7
コメント:
他の設問と同様のコメントです。
価格変動の大きいクリプトを貸し付けた場合で期末をまたぐような場合はヘッジ取引など、タックス・プランニングを検討する必要があります。
6 借入れをした暗号資産の期末時価評価
問
当社は、暗号資産交換業者以外の者から相対により暗号資産Aを借り入れ、これを借入期間が終了するまで貸付け等により運用することで収益を得ています。
この場合、当社が借入れをしている暗号資産Aについては、法人税法上の期末時価評価の対象となり、評価損益を益金の額又は損金の額に算入する必要がありますか。
なお、暗号資産Aは、暗号資産取引所に上場されており、十分な数量及び頻度で取引が行われ、継続的に売買価格等が公表されております。
また、当社は、その暗号資産取引所を運営しておらず、その暗号資産取引所で暗号資産Aの取引も行っておりません。
答
法人税法上の期末時価評価の対象とはなり得ますが、評価額と帳簿価額との差額を益金の額又は損金の額に算入する必要はありません。
法人が事業年度終了の時において有する暗号資産のうち、活発な市場が存在する暗号資産については、時価法により評価した金額をもってその時における評価額とし、また、その暗号資産を自己の計算において有する場合は、その評価額と帳簿価額との差額をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。
ここでいう「有する」とは、所有権の対象とならないようなものを包摂する広い概念であり、 暗号資産を借り入れている貴社がその借入暗号資産の処分権を有していること等に鑑みると、 貴社は暗号資産を有していると解される場合もあると考えられます。
本件においては、暗号資産Aは継続的に売買価格等が公表されている等の所定の要件を満たしますので、活発な市場が存在する暗号資産となり、貴社が暗号資産を有していると解される場合には、暗号資産Aについて、時価法により評価した金額をもってその時における評価額とすることになります。
しかしながら、返還を要する暗号資産Aの将来的な価格変動リスク等を貴社が負わないこと に鑑みると、一般的には自己の計算において暗号資産Aを有するとは言えないため、その評価額と帳簿価額との差額をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要はありません。
【関係法令等】
法法61
法令118の7
参考
令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日閣議決定)では、法人が暗号資産交換業者以外の者から借り入れた暗号資産の譲渡をした場合において、その譲渡をした日の属する事業年度終了の時までにその暗号資産と種類を同じくする暗号資産の買戻しをしていないときは、その時においてその買戻しをしたものとみなして計算した損益相当額を計上する見直しを行うこととされております。
詳細につきましては、今後、法令等により明らかにされます。
コメント:
参考情報の内容が気になります。
クリプト建てで借入をし、そのクリプトを現金などの他の資産に換金した場合、借入金に対するExposureが残ります。
具体例で見ましょう。
前提:借入時のクリプトの時価100 期末時点のクリプトの時価150
クリプトを借り入れたと同時に円に換金したとします。
1 借入時の仕訳:
クリプト 100 借入 100
2 円換金時の仕訳:
現金 100 クリプト 100
3 期末で借入れたクリプトの時価が上がった場合、次のような仕訳で借入金を増額させる必要があります:
借入時価評価損 50 借入 50
FAQ5により、貸付側は逆の仕訳をしているので整合します。
4 貸付側の仕訳
貸付 50 貸付時価評価益 50
しかし、令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日閣議決定)の内容によると、期末までに換金したクリプトを買い戻していない場合は、期末に“買い戻したものとみなして”計算した損益相当額を計上する、とあります。
詳細は不明なので推測になりますが、以下のような仕訳が考えられます:
5 期末に値上がりしたクリプトを買い戻したとみなす仕訳:
クリプト 150 買い戻しみなし益150
3の仕訳で50の評価損を計上しているのでネットで100の益になってしまいます。
5の仕訳で認識した益は実際に買い戻しをした時にリバースされますのでその時に費用として認識されます。
6 実際にクリプトを買い戻した時の仕訳(時価はさらに200に上昇したと仮定):
買い戻しみなし益 150 クリプト 150
クリプト 200 現金 200
7 同時に借入を返済した場合の仕訳
借入時価評価損 50 借入 50
借入 200 クリプト 200
まとめると、
みなし買い戻しの規定がない場合の年度別課税所得:
1年目:50のマイナス
2年目:50のマイナス
通算100のマイナス
みなし買い戻しの規定を適用した場合の年度別課税所得:
1年目:100のプラス
2年目:200のマイナス
通算100のマイナス
貸付側の税務処理と整合するのは前者です。
みなし買い戻しの規定の狙いがどこにあるのか現時点では分かりませんが、貸付側の税務処理との整合性、追加の事務手続きによる負担を考えると既存の税務処理のままでよいと思いました。
まとめ
一見既存の取引に対する税務処理と整合するように見えますが、一環してクリプトの保有目的は一切考慮されない結論になっていると感じました。
会計処理も税務処理も取引の実態を正確に表すように務めなければならず、そのためには保有目的の考慮は最低限必要です。
税務ルールは恣意性を排除するために一定の形式化は必要かもしれませんが、有価証券の税務処理も保有目的は考慮されます。
同様のフレームワークをクリプトにも応用可能と考えます。
新しい分野や技術の成長による生産性の向上が人々の生活を豊かにする経済成長のためには不可欠です。
今のFAQの整理を実務に適用するとクリプトを活用した事業の弊害になる可能性が高く、プラス面よりもマイナス面の方が大きいと感じました。