TLDR
2022年10月12日にFASB(Financial Accounting Standards Board)はクリプトアセットの評価に公正価値を使用することについて満場一致で合意しました。
議論の過程をこの動画で見ることができます:
現状のアメリカの会計処理
仮想通貨の会計処理について、2019年の12月に米国公認会計士協会(AICPA)は “Accounting for and Auditing of Digital Assets(デジタルアセットの会計と監査)”と題されたガイダンスをリリースしました。
アメリカでは現在このガイダンスに従ってクリプトに関する会計処理は行われています。
このガイダンスについては以前に記事を書いています:
このガイダンスによるとクリプトは無形資産として会計処理されます。
したがって、時価が上昇したとしても簿価の引き上げは行われず、逆に時価が簿価よりも下がった場合は減損処理を行います。
これでは財務諸表の利用者に有用な情報を提供できないとして公正価値評価による会計処理を求める要望がFASBに対して提出されていました。
現時点で130,000 BTCを保有するMicroStrategy社もFASBへの働きかけを行っていた会社の一つです。
財務諸表作成者・利用者の声が今回の決定に結びついたといえます。
日本基準との差
日本のクリプトに関する会計処理はABSJ(企業会計基準委員会)がリリースした「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」によって行われます。
日本のクリプトに関する会計基準については過去の記事で解説しています:
このガイダンスにより日本では以前からクリプトは時価評価されていました。
今回のFASBの決定が基準化されると評価方法に関して日米間で存在していた基準差は解消することになります。
予想される影響
減損会計を正確に適用するためにはクリプト購入時の取得原価を一つ一つ記録し、その一つ一つの単位で簿価を期中の時価と比較するという実務的に煩雑な側面がありました。
また、現時点でビットコインやその他のクリプトを保有する企業は法定通貨に対する値上がり目的で保有する場合がほとんどです。
そのような場合、無形資産としての会計処理は企業の意思決定に対するリターンを適切に表しません。
例えばビットコインを取得した後に値下がりした場合は減損損失を計上することになりますが、将来価格が回復したとしても値上がり分は財務諸表に反映されず、BS上の資産残高は意味を持たなくなります。
将来値上がりしたビットコインを売却すると減損処理した分を含めて一気に利益を売却した期に計上することになり、PLも大きく歪みます。
公正価値会計の導入により実務上の負担と財務諸表に対する影響の観点からビットコインの取得を見合わせていた企業にとっては障壁が一つ取り除かれることになります。
クリプト会計基準の今後
以前の記事でも書きましたが、本来会計基準は経済実態を表現するようにデザインされなければなりません。
新しいサービスや契約形態などが登場するたびにそれらの経済実態を表すベく会計基準は今までも変化してきました。
世の中を大きく変えてしまうほどの技術が登場した場合、会計基準の微調整だけではその実態を表現できなかったとしても不思議ではありません。
クリプトも第一世代がペイメント・カレンシー系だとすると第二世代のプラットホーム系とこの10年で多様化しています。
プラットホーム系のクリプトは値動きのエクスポージャーや決済のために使うのではなく、そのブロックチェーンプラットホームを利用するために保有するものがあります(ETHなど)。
この場合FVTPL(PLを通した時価評価)はもしかしたら実態を現しておらず、FVOCI(その他包括利益を通した時価評価)や無形資産のような処理が実態を現しているのかもしれません。
一つ一つが固有の資産であるNon-Fungible Token (NFT) を利用したデジタル・キャラクターやデジタル・アイテムなどを購入した場合はその購入意図によって棚卸資産や無形資産として処理するほうがより実態に近いといえます。
そしてビットコイン。
国家による裏付けがある通貨よりもプログラム、コンピューター、電力による裏付けがある通貨を選択する人が増え始めています。
その場合、法定通貨と同じように現金として処理するほうが実態を表すケースも増えてくるはずです。
その事業活動をビットコイン中心で行っている会社の機能通貨(Functional Currency)は法定通貨ではなくBTCかもしれません。
そのような世界を今想像することは難しいですが、この10年のクリプト・ブロックチェーンの進化を見ているとそう遠い未来でもないのかもしれません。